絹本著色終南山曼荼羅図 けんぽんちゃくしょくしゅうなんざんまんだらず

絵画 / 鎌倉

  • 鎌倉
  • 1幅
  • 重文指定年月日:20030529
    国宝指定年月日:
    登録年月日:
  • 松尾寺
  • 国宝・重要文化財(美術品)

 本図は中国の伝説に基づいた一種の説話図であり、北斗七星信仰を背景とする特異な星曼荼羅【ほしまんだら】でもある。密教修法としてふつうに用いられる星(北斗)曼荼羅とは全く図像を異にし、道教的要素がきわめて濃厚であり、所依とする経軌もない。平安時代後期の永厳【ようごん】や寛信【かんしん】がこのような図について述べていることから、少なくとも一二世紀前半には本図像が知られていたことがわかる。
 本図と同図像の遺品として香川・道隆寺蔵本(明治三十四年三月二十七日指定、重文、南北朝時代)があるが、本図の上下に表された十二宮、二十八宿および泰山府君、十二神将、三十六禽等を欠く。一方、本図は左上方に欠失があり、道隆寺本によれば北斗七星形と金色の鐘形のもの(鐸あるいは磬か)を叩く一人物を欠いている。また、北斗七星は密教系曼荼羅等では男性の官人や武将風に表されることがふつうであるが、本図は南宋期の道教系遺品である滋賀・宝厳寺蔵北斗九星像(平成十四年六月二十六日指定、重文)と同様の女性形に表された早期の例である。また、上下に表された二十八宿や泰山府君、・三十六禽等は北斗法に関連するものであり、道教系終南山説話と密教北斗法とが一図に習合されているとも考えられよう。なお、他に遺例を見ない三十六禽像が描かれている点も特筆される。
 本図に描かれた人物は総じてふくよかな丸顔、体躯をもち、ややのびやかさに欠けるものの平安時代の画趣を残している。彩色は細かく丁寧であり、猿や鳥を配した背景のきめ細やかな描写も優れており、鎌倉時代前期の制作と考えられる。
 本図は特異な図像をもつ道教系の絵画遺品であり、平安時代から鎌倉時代における星宿信仰の一様態を示す歴史的な資料でもあるが、一個の絵画作品としても優れた美術品といえ、重要文化財としての要件を備えているものといえよう。

絹本著色終南山曼荼羅図

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