高雄曼荼羅の白描転写は、弘法大師三百年忌(長承三年、一一三四)に成蓮房兼意が模写供養し、これを弟子の常喜院心覚が伝領護持した。長谷寺本はこの心覚伝領本を原本とし、心覚と親しかった覚洞院僧正勝賢【しようけん】が高野山に籠居修学していた時(一一六二~一一六七、一一七〇~一一七四)に転写させたものと考えられ、更にこれを勝賢の灌頂瀉瓶【かんじようしやびよう】の資であった遍照院僧正成賢【せいげん】(寛喜三年、一二三一、七十歳没)が伝領した由緒正しい善本である。また象形の精確さをきわめている点、白描図像史上からも貴重なものである。
胎蔵界巻第四に勝賢の校点奥書、金剛界巻第二に成賢の伝領奥書がある。