法華経絵巻は、和訳法華経を詞書とし、これに対応する絵を加えた経典絵解きの巻物である。仮名書き法華経は古くから行なわれ、矢代仁兵衛氏所蔵本(鎌倉初期)、足利鑁阿【ばんな】阿寺の八巻(元徳二年)が既に書跡の重要文化財となっている。絵巻ではいま知る限り、この系統の一種のみが伝存している。
当初これが法華経二十八品を絵巻にしたとすれば、かなり浩瀚【こうかん】であったと考えられるが、いま知られる三巻の断簡(畠山、村山、上野各家蔵)を合わせても、神力品(巻初を欠く)と嘱累品の二品分で、畠山本は詞二段絵二段と、三巻中最も長い。軽妙な描線と適度の賦彩【ふさい】をあわせた穏健な画風は、建長六年(一二五四)本絵因果経などに相近く、おそらく同時代の同系統の絵仏師の筆になるものであろう。